あてがわれた婚約者

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「悠子様出直されますか?」  伊部の言葉にキッと睨みつける。 「どうして出直す必要がありますの?  わたくしは聖時さんのフィアンセですのよ。  恋人かそうでないか直接聞きますわ!」  伊部にそう言葉を吐き捨てて、戻ってきた道を引き返す。    遊び相手であれば追い払うだけ。  ……恋人だったら……  聖時さんはその恋人をこれから先いったいどうするつもりなのか。  恋人がいる限り……  わたくしは紙の上では契りを交わしたとしても  その恋人以上の存在にはきっとならない。  聖時さんを好きだとか嫌いだとか……  そんな風に思うほど会ったことも話したこともない。  ……そう、ないのですわ。  それでも無性に胸の奥を駆り立てる焦燥感。  聖時さんとの結婚に"NO"はない。  この結婚にお互いの気持ちは要らない。  聖時さんがわたくし以外の女性と身体の関係を築こうと、心を通わせようと……  わたくしは聖時さんと一生添い遂げなければなりませんの。  充分に理解しているのに……。  理解している……  頭では。  だけど。  心はやっぱりついていけない。  わたくしを……  わたくしだけを……  愛して欲しい。  だから……  好きかどうかもまだわからない聖時さんの心が、わたくし以外に向いていることにどうしようもない焦りと不安を抱いてしまう。
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