あてがわれた婚約者

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 どうか、インターホンの向こうにいる見えない女性が聖時さんの遊び相手でありますように。  オートロックシステムの操作盤の前に立ち、部屋番号を押してインターホンをもう一度押した。  女性が出る前に今度は聖時さんが出た時はどうしようかとフッと頭をよぎる。  なんの答えも見いだせないまま【……はい】と、さっきと同じ声音が聞こえてきた。  やけに心臓の鼓動が速まって緊張が増す。 「わたくし、轟悠子と申します。  聖時さんはいらっしゃいます?」  居るなら居るで、本人に問い詰めた方が早い。 【……あの……聖時くんは……今日仕事で……】  ……聖時くん……?  仕事なのに……その部屋にあなたは居る。  この短い言葉で……  わたくしはすべてを理解してしまったのですわ。 「あなたと少しお話がしたいのですけど、よろしくて?」 【……わ…たし……ですか?】 「ええ、あなたですわ。  ここへ降りてきてくださる?  それとも、その部屋へ入れてくださる?」  わたくしの声音には威圧感があったかもしれない。 【……いきます……】  掠れた声音がインターホンから聞こえてきた。  焦燥感と苛立ち。  この時のわたくしは少し冷静ではなかった。  確かに少しきつい言い方をしてしまったかもしれない。  それでも……  この女性を追い詰めるつもりなんて毛頭なかったのですわ。  わたくしはこの後に起こったこの女性の悲劇を、かなり後で知った。    ……わたくしのせいかもしれない。  悲劇はわたくしが招いてしまったのかもしれない。  心の奥底でそう思いながら、自分の行動を正当化して誤魔化しながら日々をやり過ごした。  こんなわたくしを  聖時さんが好きになるわけ……ない……  
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