あてがわれた婚約者

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 *****    聖時さんにようやく電話が繋がって、食事に行く約束をしましたの。  土曜日の夕方6時。  聖時さんのマンションに行って、あの時のあの方に会うのも嫌でしたから、違う場所での待ち合わせをお願いした。  少し早く着いたから、近くの喫茶店に入ってお紅茶をいただくことにした。  待っている間に暇を潰す相手もいない。  わたくしには友人らしい友人がいない。  恋の悩みを話せるような友人。  ひとりだけ……いるけれど、いとこの遥ちゃん。  遥ちゃんはわたくしの三つ上で、今は海外で仕事をしてますの。  ですから……  この悩みを話せる人もいない。  時計に視線を向けるともう6時を過ぎていて、わたくしはバッグから携帯を取り出して聖時さんに電話をかける。  発信音は途切れることがなくて。  ……まさか、やっと取り付けた約束をすっぽかされるなんてことありませんわよね  イライラと不安が募る。  一度電話を切って、心を落ち着ける。  仕切り直しにもう一度お紅茶を頼もうかどうしようか悩んでいると携帯が鳴った。  ディスプレイには"星野聖時"。  初めてかかってきた電話に胸がときめいた。  はやる思いで通話をスライドして耳に押し当てる。 「はい……」 【もしもし】  耳に届いた声音は低くて滑らかでとてもいい声。  この声音だけで恋に堕ちそうなほどいい声。 「お着きになりましたの?」  声が弾む。 【いえ……申し訳ない。  まだ仕事が終わらなくて。】  聖時さんはそう答えた。
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