あてがわれた婚約者

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 聖時さんの車の助手席に座って車に揺られながら食事に向かう。  せっかく予約していたレストランもキャンセル。  代わりのレストランを聖時さんはきちんと予約していてくれた。  それだけで、今日一日のことはなかったことにしようと思えた。  今までのことがあったから、聖時さんが少し優しくしてくださることが嬉しくて仕方がない。 「お医者様は本当にお忙しいのね。  でも、散々待ったんですもの。  これで今日聖時さんにキャンセルされたら、今度こそはお父様にチクってやろうと思ってましたのよ。  フィアンセなんですから、たまにはお食事に一緒に行ってくださってもよろしいでしょう。」  わたくしの言葉を聞いているのかいないのか  聖時さんは殆どなにも喋らない。 「……そうですね。」  わたくしの質問にそう答えるばかり。  本当に静かな人。  聖時さんの横顔を見上げた。  整ったフェイスライン。  少し目にかかる前髪。  大きくて長い指がハンドルを握る。    きっと殆どの女性はイケメンと思うに違いない。  わたくしは……  この方の妻になるのですわ。  レストランの駐車場に着いた。  聖時さんのこの車は少し車高が高くて。  ヒールを履いているわたくしにはどうにも降りにくい高さ。  ですけど、そんな心配は無用だった。  聖時さんはさっと運転席から降りると助手席に回ってきてわたくしの手を取ってくれた。 「気を付けて降りてください。」  そう言葉を付け足して。  喋る言葉は少ないけれど、こういうさりげないところがスマートで優しくて……。    まさか……  悠子のことが好きになったのかしら?  そんなこと思ってしまうくらい。  
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