あてがわれた婚約者

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 聖時さんのテーブルマナーは完璧で、わたくしにワインを勧めてくれた。  とても静かだけど優雅なお食事でわたくし的にはとても満足だった。  勧められたワインを含みながら 「今度、聖時さんのご実家にお伺いしようかと思ってますの。」  気分がよくて、勢いでそう切り出した。   「え!?」  静かな聖時さんは目を見開いた。 「フィアンセなんですからよろしいでしょう。  聖時さんと結婚すれば、聖時さんのご実家で一緒に暮らすことになりますの?  それとも新居で?」 「……そ…れは……」  言葉に詰まる聖時さんをよそにわたくしは言葉を続けた。 「どちらにしても、聖時さんのご両親にご挨拶できますし。  聖時さんのお部屋のお掃除とかさせていただきますわ。」  わたくしから聖時さんの懐に無理やり入っていかなければ、いつまで経ってもこの関係は平行線に違いない。  聖時さんが恋人よりわたくしを見てくださるようになるには、まずは身内から味方にしていくのが無難かもしれませんわ。  聖時さんは明らかに困惑した表情を貼り付けた。 「悠子さん、俺は今実家にいない。  だから……」 「あら、それならマンションに伺ってもよろしくて?」  恋人がいる、マンションに。 「フィアンセなんですから、いずれマンションにもお伺いさせていただきたいですわ。」  わたくしがあの方に会ったことを聖時さんは知っているのかしら? 「……そうですね。」  聖時さんはわたくしの言葉を受け入れた。  その言葉に逆に驚いてしまって。 「え!?」 「とりあえず、父親には悠子さんが行くこと伝えておきます。」 「あ!……ええ……そうしてくださると助かりますわ。」  あのマンションへ行くことを強く拒否されたわけでもなく。  なんとなく拍子抜けしてしまった。  とりあえずは星野家へ伺うことを許されて。  その事実だけでわたくしはかなり浮かれていたのですわ。  この時にはあの時の太陽の方の存在をすっかり忘れていた。  わたくしの心を掻き乱す  眩しい太陽。
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