prologue

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 *****  2年前の春。  わたくしの人生はこの日に決まったのですわ。  桜の花びらが舞い散る。  まるで、踊っているみたいに綺麗で。  穏やかな優しい風が部屋の中へ舞い込んでくる。  寒くもなく暑くもなく。  でも、轟(トドロキ)家では暑さも寒さも関係ありませんの。  部屋の温度は執事の伊部(イベ)がいつも調整していて、屋敷にいる時に肌に感じる温度の苦痛を感じたことはありませんから。  お父様に呼ばれて書斎のドアをノックする。 「入りなさい。」  お父様の落ち着いた声音が聞こえてきて、ゆっくりとした手つきでその重厚な扉を開いた。  お父様がいないときにこの部屋へは誰も踏み込めない。  わたくしももちろん入ったことはない。  入りたいと思ったことも……ないのですけど。 「悠子ですわ。失礼します。」  部屋の中にはお父様の秘書の指川(サシカワ)の姿もあった。 「急に呼び出して悪かったね。」  お父様はにっこりと笑う。  笑っているけど、目は笑っていない。  いつもそう。  お父様が心から笑っているところなんて見たことがない。  書斎机の椅子に背を持たれて座っているお父様。  秘書がつくだけあってお父様の仕事は忙しい。  今回の知事選で見事に当選して、県知事になった。  轟 大治郎(トドロキダイジロウ)。  わたくしのお爺様も政界人。  生まれた時からわたくしの隣には政治が身近にあった。  SPがお父様やお爺様をお迎えにくることなんてしょっちゅうのこと。 「悠子はいくつになったんだったかね?」  お父様に突然質問されて。
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