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「はい、お待たせしました。」
節子さんはトレーにコーヒーと紅茶。
それに上品なお皿にのせたクッキー。
テーブルの上に次々に置いていく。
お皿にのっている上品なクッキー。
「美味しそうですわね。」
初めて見るクッキー。
お義母様は「ふふ」と柔らかく笑った。
「煌人が東京の出張で買ってきてくれたのよ。」
きらと
その名前にドキンっと心臓が跳ねた。
「銀座のお店でしか売ってないみたいなの。
オーストラリアの伝統的なクッキーらしくて、すごく人気があるからすぐに売り切れになるみたいなのよ。」
そのクッキーのことを話してくれているけれど。
わたくしが知りたいのはクッキーのことじゃありませんの。
「旦那様と奥様は大のクッキー好きですから。
煌人さんは出張に行かれるといつもクッキーをお土産に買って帰られるんですよ。」
節子さんはそう説明を追加した。
「あの……きらと……さん……って……」
その名前を口にして更にドキドキが増していく。
「ああ、そうね。
聖時しか知らないのよね。」
お義母様はコーヒーにミルクを注いだ。
ミルクのカップをテーブルに静かに置くとわたくしに視線を向けた。
「煌人は聖時の兄よ。
もうちょっとしたら帰ってくると思うわ。」
「うん。美味しいな。」
わたくしの胸のときめきなんて気づくこともなく、お義父様はきらとさんからのお土産らしいクッキーを口に運んでいた。
……気づかれても困りますけど。
「噂をしていたら帰ってこられたみたいです。」
ドキンッ!!
顔もみたこともないあの方に……
わたくしは一体どれだけ胸をときめかせているのか……
節子さんはいそいそとリビングを後にした。
きっと、玄関までお迎えに行ったのですわ。
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