まぶしい太陽

5/28
前へ
/441ページ
次へ
 節子さんだけがリビングへ戻ってくる。  キッチンへ向かう節子さんをお義父様が呼び止めた。 「節子さん。」  その声に節子さんは足を止めた。 「煌人には今日の客人が悠子さんだとどうも伝わっていないみたいでね。  コーヒーを持って行ってくれた時に、落ち着いたら降りてくるように伝えてくれるかね。」 「お義父様、きらとさんは疲れていらっしゃるみたいでしたから、わざわざよろしいですわ。」  きらとさんの存在がどうしようもなくわたくしの心をザワザワとさせる。  きらとさんはきっとわたくしのことなんて覚えていない。  あんな一瞬の出来事。  ……会ってみたい。  いえ……この感情は……ただの好奇心。  聖時さんのお兄さんなら  きらとさんは、わたくしの義兄になるのですから。 「いや、煌人も家族になるのだからね。  紹介しておくよ。」  お義父様はそう静かに言われたのですわ。 「かしこまりました。  煌人さんにお伝えいたします。」  節子さんはにこやかに微笑んでそう答えると奥のキッチンへ姿を消した。    しばらくして節子さんがキッチンを出て行った気配を感じて……  またしばらくして戻ってきた。  全神経が節子さんに向いていて……。  コーヒーを飲み終わったらきらとさんが降りてくる。  そう思うだけで緊張が増していく。  きらとさんのお土産のクッキーを勧められて2,3個いただきましたの。  味なんて……  わかるはずがない。  どれくらい時間が経ったのかもわからなくて。  10分だったのか……  30分だったのか……  トントントンと階段を降りてくる静かな足音が聞こえてきた。
/441ページ

最初のコメントを投稿しよう!

959人が本棚に入れています
本棚に追加