太陽の下で

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 駐車場に着いて、助手席の扉を開けた。 「どうぞ。」  俺の言葉に悠子さんはもう一度俺に視線を向けた。 「……よろしいの?」 「ええ、勿論。  悠子さんがここ以外に座るなんて俺の中では"なし"だ。」  俺の車に悠子さんが乗ったことがあるのは一度だけ。  その時には後部座席の扉を開けた。  あの時は……  悠子さんは聖時の婚約者で  俺にも知佳という恋人がいた。  助手席に乗せてはいけない人だった。  悠子さんは瞳を揺らして、小さく頷くと助手席に座った。  それを確認して扉を閉める。  運転席に回って俺もレクサスに乗り込む。  すぐさまエンジンをかけた。 「暖まるのに少し時間がかかる。  申し訳ない。」 「いえ、そんなことは気にしていませんわ。」  悠子さんの言葉を聞きながら後部座席からコートを取った。 「さすがに俺も寒い。」  外気温と同じで冷え切ったコート。  それに腕を通す。  キンキンに冷たく冷え切っていて、着たら暖まる……着ていないよりはマシ。  なんなら、自分の体温でコートを暖めなければいけない。  さらに身体の体温がさがった気がして、一気に身体が震え始める。 「煌人さん、大丈夫ですの?」 「ええ。暖房が出るまでの辛抱です。」  突然ふわっとローズの香りが濃くなって  俺の身体が包み込まれた。 「あ、あの、こうしていればきっと寒さが緩みますわ。」  俺の肩に回されたぎこちない手に  頬に触れる柔らかな髪の感触に  甘ったるいローズの香り 「……煌人さん……?」  色っぽくて甘ったるい声音。  たまらなくて!  悠子さんの手を取って助手席に押し倒した。
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