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「そんな風に言っていただけて、本当に嬉しいです。
名前に負けないように必死です。」
「負けてなんていませんわ。
お名前通りに煌めいていますわ。」
わたくしは思ったことを素直に口にする。
煌人さんは突然歩みを止めた。
止まるなんて思ってもいなかったわたくしは半歩身体が前に出てしまう。
一緒に足を止めて煌人さんに身体を向けた。
煌人さんは右手で顔を覆っていた。
……変なこと……言ったかしら?
「あ、あの……」
「……ククク」
煌人さんは笑いを押し殺していて。
ふ~と、煌人さんは大きく息を吐き出して、顔から手を離した。
煌人さんはまた零れるほどの笑顔を向けて「有難うございます。」って、そう言われたんですわ。
「悠子さん、もうすぐですよ。
大きなアヒル。」
煌人さんは明らかに話を逸らした。
そして、止まっていた足を動かした。
押し殺した笑いの意味を聞き返す勇気もなくて。
そのまま煌人さんについて行く。
煌人さんと一緒に歩いた公園。
微妙な距離。
煌人さんの優しくて煌めく笑顔と
耳に心地いいはつらつとした声音。
わたくしへの気遣いも抜群で。
エスコートは申し分なくて。
殿方とどこかへ出掛けることもなかったこの数年間。
触れそうで触れない……微妙な距離。
いえ、触れてはいけないのです。
大きくて骨ばったその手に……。
どうしてこんなに触れてみたいと思うのでしょうか。
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