事務長と医者

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 その手を握る。 「悪いな、知佳(チカ)。  明日も早いんだ。」 「……朝……起こしてあげるのに。  私は……ずっと一緒に……いたいよ……」  ベッドの端に座っていた身体を後ろにひねって、知佳の髪を撫でる。  裸のままの知佳はタオルケットを身体に巻き付けていて、そのふくよかな膨らみが覗く。  俺の腕の中でさっきまで淫らに啼いていた余韻がそこに残っていた。 「……悪いな。」  知佳のぼさぼさになった長い髪にキスを落とす。  ベッドの下に散乱した下着や服を拾い集めてサッと身に着ける。   「煌人。」  知佳の寂し気な声音に視線を向けた。 「……あの……」  知佳が何を言いたいのか……  わからないわけでもない。 「前にも言ったけど。  結婚ならしない。」  俺はその言葉をもう一度はっきりと告げた。  ひどく傷ついた表情をする知佳。  その顔を見て……  心が痛まないわけでもない。  知佳とは付き合い始めてもうすぐ1年。  三つ下の知佳は……  きっと結婚を焦っている。 「……私のこと……好き?」  掠れた声音の知佳の唇にキスを落とした。 「そうじゃなきゃ付き合ってないだろ。」  唇を離してその言葉を返した。  俺が微笑むと知佳も安堵の表情を見せた。 「いつか……してくれる?」    その問いに、ふ~と、大きく息を吐き出した。  知佳はビクッと肩を震わせた。 「知佳。  俺は今、結婚とかそんなこと考えてる余裕がない。  知佳のことは好きだよ。  だけど。」  俺はひどい男だと思う。
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