事務長と医者

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 *****  親父が仕事を終えて、疲れた顔して家に帰ってきた。  大抵は俺の方が帰りが遅いが、今日は給料日後なこともあって、仕事は5時には終わった。  こんな日は洋画のDVDを借りてきて、節子さんの焼いてくれたクッキーを食べながら映画鑑賞をするのがいい。  自室の部屋の壁に80インチの映像が映る。  音も映像も映画館さながら。  知佳に会いに行くより一人で過ごしたくなる俺は……  結婚には向いていないと思う。  自分の病院で事務長に就任して7年。  色々と改革してきた。  星野病院がいつまでも地域に愛される病院であるために。  まずは中身の改革。  徹底的にコストの削減と患者サービスの向上。  電子カルテへの移行。  のらりくらりと過ごしてきた使えない人間の切り捨て。  ……俺は、そうゆう意味では人に恨みをかっている。  その代わりに医者から事務員すべてのスタッフに対して自己評価と他者評価を実施して、昇給やボーナス時の特別手当を支給している。  職員の満足度調査、ストレス度調査も年に一度実施。  そのおかげもあってか、うちでの離職率も低下してきたし、募集をかけていなくても就職希望者が増えてきた。  確実に星野は県内での"いい病院"のトップに上昇を始めている。  俺が目指すべき場所。  事務長としてこの病院を守っていくために貫き通すこと。  何があっても潰させはしない。  星野病院は一度経営が傾いたことがある。  病院の経営は基本的に難しい。  お金がない人でも病気になった以上は受け入れなければならない。  医療費を支払えない人をどこまで受け入れるか。  ……答えなんてでない。  だけど、傾いたのはそれが理由じゃない。  当時の事務長が病院のお金を横領していたんだ。  親父は当時の事務長を心底信頼していて、帳簿の管理もすべてをその事務長一人に任せていて。  横領の事実に気づくのがもう少し遅かったら、星野病院は本当に潰れていたかもしれない。
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