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ノックの後に扉を開いたのは親父だった。
「煌人、少し話がある。
それを見終わってからでいい。
わたしのところに来てくれ。」
親父は壁に映りだされた映像に視線を向けて、真面目な顔して俺にそう告げた。
「大事な話なら、先に聞くよ。」
ソファでくつろいでいた俺は身体を起こした。
「……そうか、悪いね。
それじゃあ、5分後にリビングに来なさい。」
その言葉を残して親父は扉を閉めた。
……何かあったかな。
5分後と言われたけど、もう映画なんて観ている気分になれなくて、プロジェクターの電源を落とした。
親父が俺を呼び出すときは基本的にあまりいい話じゃない。
親父が一人で抱えきれなくなったことを俺に相談してくることが多いから。
初めから俺に相談してくれ。と、何度も言っているのに。
あの人は息子の俺に迷惑をかけるとでも思っているのか……。
後から言われるほうがよっぽど困るってのに。
それとも……
親父にしてみれば、俺はまだまだ頼りにならないってことなのか。
ふ~と、大きく息を吐きだしてソファから立ち上がった。
リビングへ降りるとまだ親父の姿はなかった。
そう言えば、スラックス姿だったな。
帰ってきてすぐに俺の部屋に来たのかもしれない。
「節子さん、親父が来たらコーヒー頼むよ。」
奥のキッチンへ向かい、そこへ立つ節子さんに依頼した。
「ええ、旦那様からも仰せつかっております。
煌人さんはお優しい方ですね。」
節子さんは突拍子もなくそんなことを口にする。
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