事務長と医者

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「節子さん、俺は……  星野のためにもっと上を目指すよ。」  俺の決意にも似た発言に驚いた表情を一瞬見せて、そしてまたほんわりと笑う。 「ええ、節子はその活躍をしっかりと見届けます。」  親父がリビングに入ってきた気配を感じて「コーヒーお願いするよ。」そう言葉をかけて、リビングへ戻った。  一瞬俺と視線を絡めた親父の表情が硬い。  親父はいつもの自分のソファへ腰を下ろした。  俺はその向かいにあるソファに座りながら声を掛けた。 「で、話って?」  親父の動きがスローモーションのようにゆっくりと見えた。 「煌人は結婚しないのか?」  顔を上げながら質問してきた。   「……は……?」  なんの……話だよ……。 「なんだよ……まだ33だ。  そんなに急がなくてもいいだろ。」  そもそも俺は結婚不適合者だ。  親父の表情が……  曇る。 「……もしかして……  お見合いとか……そうゆう話……?」 「ああ……そうだ。」 「いや!ちょっと待ってく……」 「お前にじゃない。」  俺の言葉を遮る親父の強い声音。 「……え?」  俺にじゃ……ないって?    じゃあ……誰に?  ピンと張り詰めた空気を割ったのは節子さん。  親父と俺の前に静かにコーヒーを置いた。  親父はブラックで飲むから、すぐにカップに手を伸ばした。 「聖時にはさっき電話で話した。」
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