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ふ~と、大きく息を吐きだした。
「親父のビジョンを教えてくれよ。」
総合病院なんて簡単には作れない。
金も人材もいる。
生半可な気持ちで親父に頷くわけにはいかない。
「この冬に知事に就任した轟大治郎に力を貸してもらえないか打診した。
知事が動けば県がお金を出す。県が動けば、それだけ広告にもなる。
総合病院は造って終わりじゃない。
それだけの人を集めなければならない。」
「……うまくいくと思ってるのか?」
俺の言葉に親父は俺の瞳をまっすぐに見つめた。
「馬鹿な夢だと思っているよ。
わたしが院長になったときに描いた夢だ。」
親父が……
そんな夢を持っているなんて……思ってもいなかった。
「だけど、日々のことで精いっぱいで、そんなこと考えている余裕もなかった。
一度は閉院も考えた。
……また、こんな馬鹿げた夢を叶えてみたいと思ったのは、他の誰でもないお前のおかげだ。
医者にならないと言われた時には正直ぶん殴ってやろうかと思ったがな。」
親父は初めて当時の思いを俺に告げた。
親父はニヒルに笑う。
その顔が聖時とそっくりで。
「星野を引っ張っていけるのは煌人しかいない。
聖時は医者だから、おのずと院長になる。
だけど、聖時には人をグイグイと引っ張る力がない。
お前が道を作ってやってくれ。」
……親父は昔から聖時の心配ばかりしている。
別に出来が悪いわけでもないのに。
多分。
俺のせい。
医者にならなかった俺のせい。
聖時まで医者にならなければ……
全部を凛子がかぶることになる。
女の凛子にそんなことはさせられないと思っているに違いない。
聖時が星野の院長としての道を脱線しないように。
俺は聖時のお目付け役ってところだ。
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