事務長と医者

13/25
前へ
/441ページ
次へ
 今時……  これは政略結婚。 「親父の気持ちを確認させてくれ。」  俺の強い声音に親父は俺の瞳をもう一度見つめてきた。 「それでも、聖時は嫌がるかもしれない。  聖時が拒んでも、この話を受けるのか?」  ……親父はすぐには頷かなかった。  親父なりに、きっと迷っている。  これは親が決めた政略結婚。  息子の幸せなんて、二の次になる。  もしかしたら、知事の娘と本当に恋に堕ちるかもしれない。  そうすれば、親父の夢も聖時の夢もめでたく叶う。  だけど。  そうでなければ……。  ただの地獄だ。 「……これは……わたしの我儘だ。」  親父は静かに口を開いた。 「……今時こんな拒否権もない結婚。  もう、そんな時代じゃないだろう。  だけど、わたしも母さんとはお見合い結婚だった。  星野を存続させるために爺さんが選んだ相手と結婚する。  そのことに拒否する権利なんて与えられはしなかった。  だけど……。」  親父の表情が柔らかくなる。 「わたしは母さんに恋心を抱いた。  つらい時も苦しい時もあったが、母さんが結婚相手でなければ、わたしはここまで頑張れなかったかもしれない。」  親父は両掌をグッと握りしめた。
/441ページ

最初のコメントを投稿しよう!

958人が本棚に入れています
本棚に追加