事務長と医者

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 それから、工藤は1か月後に星野へやってきた。  冗談だったらどうしようかと思ったけど、翌日俺の携帯に電話をかけてきてくれた。  「今、辞表を提出してきたから、今月末には受理されると思う」と俺に告げた。  やると決めたらやる男。  昨日の今日でもう辞表を提出したなんて……  仕事、早すぎるだろ!  東洋製薬の秘書の地位をあっさりと捨てた。  俺も工藤を退屈させないと約束した以上はその期待に応えなきゃいけない。  そのプレッシャーと同時に込み上げるどうしようもない高揚感。 「クククク。」  嬉しさで笑いが零れる。 「パーフェクト。」  工藤の言葉にそう答えた。  それ以外に言葉なんてないだろ。 「星野さん、昨日は楽しかったです。  あんな1時間足らずの時間で俺はあなたに夢中になった。  あなたが、俺を必要としてくれるのなら……。  星野さんの期待以上の仕事をしてやりますよ。」  なんなんだ!  コイツ!!  工藤に恋でもしたかもしれない。  胸が高揚してドキドキが収まらない。 「あはは。  俺は、工藤さんの手帳を見て、あなたが欲しいと思った。  あんな真っ黒な手帳……。  秘書の仕事にプライドと熱意がなきゃあんなに黒くならない。  工藤さんと仕事ができる日が待ち遠しい。」  そんな言葉を交わして……1か月……。  工藤が来た初日。  まず、親父とおふくろに紹介して、朝の朝礼で事務員たちにも工藤の紹介をした。  工藤はあの時に持っていた手帳とは違う手帳を手にしていた。  みんなへの紹介が終わると工藤はいきなり、今日のスケジュールを確認してきた。  それに足が止まる。  ……え~と……。  午前中は時間が空いていたはずだから、溜まっていた事務の雑務をしようと思っていた。  だけど、工藤が来たから事務の仕事は後回しで、先に俺の仕事を説明しなきゃいけない。
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