事務長と医者

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 難解なクレーム患者の対応を終えて、事務室へ戻る。  その事務室の奥に事務長室がある。  事務長室と言っても名ばかりで部屋自体は6畳程度しかない。  一応、俺が作業をするテーブルと書類の積み重なる本棚。  テーブルの上も事務員たちが最終確認で俺に回してきた書類で散乱しているし、予定がわからなくなるから、俺のテーブルの横に大きな壁掛けカレンダーをかけていて、そこに予定をメモに書いて貼り付けている。  ……けど。  実際、工藤の言う通り。  予定なんて貼ってるだけで、ゴチャゴチャしていてよくわからない。  それを整理している暇もないし、テーブルの上も書類の山で、絶対に大事な書類だけは、俺がいるときに持ってくるように事務員たちには声をかけているくらいだ。  「お疲れ様です。」の声を聞きながら、事務長室へ入ると鬼の形相の工藤と視線が絡む。 「……どうした?」  この1時間足らずでそんな顔する出来事があったか? 「煌人さん!  今日の昼からの予定はME業者ではありません!  13時にすむサポの相田さんと打ち合わせです。  すむサポを検索したところリフォーム業者ですが、どこかをリフォーム予定ですか?  ちなみに、エコー機械の業者のプレゼンは明日です。  明日の夕方16時から3社です。」  工藤の勢いに押されながら「あ、ああ」なんて頷いた。 「それと。」 「まだ……あるのか?」 「俺のデスクも用意してください。  煌人さんの机の上に事務員が適当に書類を出していく!」  工藤は書類の山を手にしてそれを俺の目の前に突き出してくる。 「こんなんじゃ、書類がいつ紛失してもおかしくない!  書類関係は俺の机に全部提出させます。  煌人さんの確認が必要な分だけ、俺から直接声をかけます。  それ以外は俺がチェックする。  きっと、その方が早い!  わかりましたね!!」 「……はい……」  工藤のペースに完全にのまれている。    それなのに……  胸の奥底から笑いが込み上げてくる。
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