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一週間もしないうちに工藤は完璧に俺の秘書としての立場を築いた。
すでに一日のスケジュールは工藤に任せていれば、目の前の仕事に全力投球出来ることを悟った。
余計なことを考えずに仕事ができる分、集中力が高まって仕事がはかどる。
時間になれば、工藤が教えてくれる。
一分一秒遅れることなく、俺がその場所に居合わせるようになって、事務員も業者も驚いた表情を見せる。
それも面白い。
工藤が来てから1か月半が経った頃だった。
もう少し緩やかで広めのスロープをつけるための正面玄関の改修工事。
工事は終わったが、スロープの奥に少しの段差ができてしまったため、そこの段差を埋める工事を近いうちにするとのことだった。
よく見れば、段差はわかるが、違うところを見ていれば、足を踏み外すかもしれない。
たいした段差ではないが……。
「……どうするか。」
「とりあえず、段差注意の貼り紙でもしておきましょうか。」
何となく引っかかるが、何もしないよりはマシか。
「そうだな。
目線の高さと少し下にも3枚くらい貼り付けるか。」
それが早朝の出来事。
今日は天気が良くて暑くなりそうだ。
正面玄関から天を仰いで、朝日を浴びる。
一輪の薔薇はひっそりと……
誰にも見つからないように咲いていたんだ。
それを手に入れたいともがく俺は……
あの人からすればとてもちっぽけで浅はかに違いない。
どうやったって……
手に入らない暗闇に咲く深紅の薔薇。
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