事務長と医者

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 *****    午前中に工藤と外回りに出ていて、その帰り。   「それにしても今日は暑いな。」  職員駐車場に車を止めて、病院へ戻りながら照り付ける太陽に思わず言葉が漏れた。 「まだ28度程度ですよ。  これからもっと暑くなりますよ。」  工藤はシレッとした表情で俺にそう返した。   「……あ~、冷たくて美味しいコーヒーが飲みてえなあ。」  棒読みで呟いた。 「アイスコーヒーが給湯室の冷蔵庫にありますから、後でお持ちします。」 「それじゃあ、ふたつな。」 「……ふたつ?」  工藤の疑問形に笑って答える。 「工藤の分とふたつだ。」 「……俺は……別に……」  工藤の戸惑った声音。 「ダメだ。  俺の言葉は絶対だ。  戻ったら俺と一緒にコーヒータイムだ。」  そう言って意地悪く笑う。  こいつはかなり秘書として鍛え上げられている。  必要以上に俺に近づかない。  休憩中は絶対に俺の部屋に入ってこない。  ……ってゆうか。  俺が座ると狙ったかのようにコーヒーを持ってくる。  事務長室だけじゃなくて会議室でも、来客室へ来客を通した時でも。  しかもかなり美味いコーヒー。  こんなに美味いコーヒーを飲むと節子さんのクッキーが食べたくなる。  最近は工藤の淹れてくれたコーヒーが楽しみで椅子に座る。  工藤のコーヒーを楽しみに病院の正面玄関へ向かっている時だった。  明らかにお嬢様。  しかも美人に見える。  オーラからして俺たち一般人とは違う。  そのお嬢様は後ろの黒スーツを着た長身男性に何やら言われて、そちらに視線を向けていた。  
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