事務長と医者

25/25
前へ
/441ページ
次へ
「工藤、至急業者に電話しろ。  それとここ周囲を通行禁止に。」 「わかりました、煌人さん。」  やっぱり朝の時点でそうしていればよかった。  これ以上何かがある前に対処だな。    心の奥で呟きながら工藤からお嬢様に視線を戻した。 「お嬢さん、お怪我はありませんか?  本当に申し訳なかった。  ここの段差は至急対応させてもらいます。」    お嬢様は相変わらず目を細めたまま俺の顔を見つめていて。 「お気をつけてお帰りください。  それでは失礼させていただきます。」  軽く頭を下げて、後ろにいる黒スーツの男性にも軽く会釈をした。  驚くほどの無表情だった。  二人の横を通り過ぎて工藤と一緒に院内へ入る。  もう二度と会うことなどないだろうとこの時の俺は思っていた。  このお嬢様との出逢いが……  俺の運命を大きく狂わせて……  どうしようもなく熱く熱く……胸を焦がす。
/441ページ

最初のコメントを投稿しよう!

958人が本棚に入れています
本棚に追加