一輪の真紅の薔薇

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   その週末だった。  聖時が結婚したい女性を連れて家に帰ってきたのは……。  そんな相手が聖時にいることに本気で驚いた。  聖時といえば……。  特定の彼女を作らない。  来るもの拒まず去る者追わずの典型的な遊び人だったから。  医学部の時にはすでに一人暮らしをしていたから、その頃はどうだったか知らないが、高校の時はそれなりに凄かった。  いつも違う女子が隣に居たし、家にもよく連れてきていた。  親父とおふくろが帰ってくる頃には家からあっさりとも冷たく追い払っていたから、聖時がそんなことをしていたなんて、きっと親父とおふくろは知らない。  俺も凛子もわざわざ言わなかった。  聖時とは年も三つ離れていたし、中学・高校と一緒に登校することはなかった。  だから……  学校での様子も知らない。  でも、ちゃんと医者になったくらいだから、勉強はしていたんだと思う。  聖時が連れて帰ってくる彼女にすごく興味があった。  あの聖時を"結婚したいと思わせた女性"。  そりゃあ、興味わくでしょうよ。    親父は朝から硬い表情で。  この拒否権のない結婚に、別に結婚したい人を連れて帰ってくるなんて。  親父の心も内心複雑だろうと、第三者の俺はなんとなく二人が気の毒に思えた。  リビングに通すものだと思って、俺は一応きっちりした私服に身を包んだ。  だけど、親父は…… 「聖時が帰ってきたら、応接間に通してくれ。」  節子さんにそう言った。  親父ははなから聖時が連れて帰ってくる人を受け入れるつもりなんてない。    ……そうゆう意味なんだろう。  だから、俺と凛子は"聖時とその彼女に会わなくていい"ってことなんだ。  あの言葉にはそうゆう意味も含まれている。  俺も凛子もその彼女の顔を知らない。  儚げな後姿だけ。  長身の聖時が隣にいるせいか、その姿はとても小さく見えた。
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