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聖時の身勝手な行動は星野を潰す。
そうだけど。
そうかもしれないけど……。
「そんなこと知るかよ!」
聖時のイラついた声音が応接間に響いた。
好きな人を連れてきたんだ。
結婚したいと思った人。
だから、政略結婚なんてしない。
聖時の本心の叫びだ。
「聖時。」
親父は静かに聖時を呼んだ。
聖時のことを思うと俺まで胸が苦しい。
……本当なら……。
俺だったはずなんだ。
俺が事務長になんてならなければ、聖時はその彼女と結婚することが出来た。
聖時には……
自由な未来があったはずなのに。
応接間の扉の横の壁に背中を向けて、その壁に身体を預けた。
「彼女がお前と結婚して幸せになれるとは思えない。
院長夫人はそんなに楽な人生ではないぞ。
見た限りかなり人見知りが強い。
いろんな人が聖時を訪ねてくる。
母さんはまだ医者だったからその半分はおばあちゃんが代りに請け負ってくれいていたが、その接待をするのも妻の仕事になる。
星野病院を一緒に支えられる器が必要だ。
その覚悟が……果たしてあるのかな?」
親父は彼女に向ってその言葉を投げかけたに違いない。
しばらくの沈黙が流れた。
「美沙緒(ミサオ)さん。」
今度はおふくろの優しい声。
「あなたの人生には……聖時だけが全てじゃないわ。
聖時は平凡な普通の男の人とは背負っているものが少し違うの。
この聖時の人生だけは誰も代りがいない。
今すぐこれからのことを決めなさいとは言わないわ。
だけど、考えて欲しいの。
どうすることが二人にとって幸せになれるのか。」
"『聖時の人生だけは誰も代りがいない。』"
おふくろのこの言葉が俺の頭の中で何度もリフレインする。
俺は掌を強く握りしめた。
そんな相手がいるなんて知らなかったとはいえ……
今の聖時を苦しめているのは、長男の俺だ。
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