一輪の真紅の薔薇

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「……せいちゃんも。  もう一度よく考えなさい。」  おふくろも……  親父の考えには賛成しているんだな。  星野病院を総合病院にする。ってことに 「よく考えた末の……」 「……聖時くん、いいの……。」  聖時のイラついた言葉を止めたのは震えた小さな声音だった。  きっと、彼女の声。  また、少しの沈黙が流れた。  その沈黙を破ったのは聖時の低い声音だった。 「今日は帰るよ。」  その言葉が聞こえてきて俺は身体を起こした。  ここに俺がいたことに気づかれるわけにはいかない。  忍び足も急ぎながら廊下を歩いた。  そのままリビングに入る。  節子さんの姿はリビングにはなくて、俺が居なかったことも気づかれてはいないかもしれない。  キッチンはダイニングの奥にある。  キッチンの奥に少しのスペースがあって、用事がない時には節子さんはそこの椅子に座ってラジオを聞いていたり、編み物をしていることが多い。  そこの窓から自宅のガレージが見える。  だから車で帰ってくると節子さんは必ず玄関まで迎えに来てくれる。  その節子スペースに今はいるはず。  リビングに入ってそのまま掃き出し窓へ向かう。  聖時と彼女が帰っていく姿を見ようと思った。
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