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聖時と彼女がその後どうなったのか、知る由もなく。
それから二か月程度経った頃だった。
轟家のご令嬢と聖時の顔合わせの日取りが決まったみたいで、聖時が久しぶりに自宅に帰ってきた。
もともと口数が少ないし、そんなに普段から笑うやつじゃない。
必要以上に喋りかけてこないし、喋ったからってたいして会話も弾まない。
俺と喋るより凛子との方がよく喋っている。
……凛子が一方的に喋りかけてるって言っても過言ではないけど。
俺はご令嬢の名前も顔も知らない。
聞けば教えてくれたのかもしれないが……
本当ならご令嬢と結婚するのは俺だったはずで。
それなのに、興味だけ持つなんて。
俺にはそんな権利すらない気がして……。
素知らぬ顔を通してきた。
聖時は俺の顔を一瞬だけ見てすぐに視線を反らした。
聖時の気持ちすら知らない。
彼女とどうなったのか。
今日帰ってきたのはご令嬢との結婚を受け入れたからなのか。
……何も知らない。
親父と一緒に家を出て行った聖時。
その後、聖時は家には戻ってこなかった。
親父が一人で戻ってきて……。
「……聖時は……大丈夫だったのか?」
専用のソファに座る、疲れた顔した親父に聞いた。
親父は俺に視線を向けた。
「わたしもね、聖時が憎いわけじゃない。
まさか、結婚したい人がいたとは……思いもしなかったよ。」
そう言って、小さく溜息を吐いた。
「だけど、彼女じゃどっちにしても無理だ。
あんなに気弱そうな娘さんじゃ……」
親父は小さく頭を横に振った。
「聖時には2年半の猶予を与えた。
その間に星野を背負って立つ院長としての自覚を持ってくれたらいいんだが……。」
親父はもう一度、今度は深い溜息を吐き出した。
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