一輪の真紅の薔薇

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 親父は俺から視線を反らした。 「節子さん、今日はお酒をもらおうか。」  いつの間にか傍にいた節子さんに声をかけた。 「ご用意してまいります。」  節子さんはそう答えて奥のキッチンへ姿を消した。  ……2年半の猶予。  それは聖時に与えた親父の優しさと厳しさに違いない。  その2年半で彼女とは縁を切れ。  そして……。  2年半後にご令嬢と結婚しろ。……ってことだ。 「……2年……か……。」  無意識に呟いていた。  親父が与えたこの2年半。  俺たちは……  どう過ごすのだろうか。  思わず頭の隅に浮かんだ知佳の存在。  知佳のことは好きだ。  だけど、結婚したいと思っているわけじゃない。  俺には……結婚は遠い。  だけど。  もし、結婚したいと思う相手が現れたとしたら……?  俺だけ好きな人と結婚するなんてできないだろ。  聖時がご令嬢と結婚した時が俺にとってもタイムリミットかもしれない。  聖時を差し置いて……  俺だけ好きな人と一緒に過ごすなんて許されるわけがない。  その一か月後だったみたいだ。  聖時と彼女に最悪な出来事が起きたのは……。  この世に……神は…いるんだろうか……。  暗闇に流れる星は……  願いなんて……  叶えてくれない。
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