一輪の真紅の薔薇

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「……いえ、俺は……」  俺と一緒に働くようになってもう半年以上も経つのに、工藤は俺にまだ一歩距離を置く。  雇い主と雇い人だからか。  事務長とその秘書だからか。  まあ、その距離を無理に縮める必要もないのかもしれないけど。  仕事から離れた時くらい俺の秘書でなくていい。 「いいだろ、飯くらい付き合え。」  事務長室の椅子に引っ掛けていた上着をさっと手にして、それを羽織る。  工藤は返事を返さなかったが、俺の後を着いてきた。  イコールそれは飯に行くってことだ。  嫌がるときはこいつははっきりと言葉にする。  一緒にラーメンを食べながら「工藤」と、名前を呼んだ。  工藤はラーメンから視線を上げて俺を見ると「何ですか?」そう聞いてきた。 「土日は俺に構わずしっかり休め。」 「そうゆうわけには!」  案の定、勢いよく反論してきた。 「いや、本当に。」 「給料なら本当にいりません。」 「違う、給料のことを言ってるんじゃない。  朝言ったことは冗談だ。  お前は本当に給料以上の仕事をしてくれている。  働いてくれた分はきっちり給料として支払う。」  工藤は明らかにムッとした表情を見せた。 「工藤。」  俺の強い声音に工藤は箸を置いた。 「これは雇い主としての言葉だ。  休みの日はしっかり休め。  俺はお前が心配だ。  お前に倒れられでもしたら、俺が困るんだよ。」 「……煌人さん……?」 「お前が来てくれてから、俺の負担がかなり減った。  何かにいつも追われていて、だけどそれを確かめている暇もなくて。  だけど今は、追われる焦燥感から解放された。  お前が真っすぐに俺が進む道を舗装してくれてるからな。  迷子にもならないし、時間にも遅れない。」  工藤にニッと笑う。
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