一輪の真紅の薔薇

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 普段なら帰宅後必ずリビングに顔を出す。  親父かおふくろがそこにいることが多いから。  だけど……。  今日は絶対にヤバイ 「お客さんが来てるならリビングには行かない方がいいかな?」  少し早口で喋った。  節子さんに口を挟む隙間を与えないために。 「ちょっと疲れちゃってさ。  節子さん、部屋にコーヒーお願い出来るかな。」  別にそれ程疲れてはいないけど、そうゆうことにして、リビングに寄らなくてもいい口実を作る。 「はい、かしこまりました。」 「悪いね、頼むよ。」  リビングの扉が開いていることにも気が付いた。  チラリともリビングに視線を向けることなく逃げるように2階へ急いだ。  俺の部屋は一番奥。  廊下を奥まで歩いて一番端の扉のノブを下して扉を開けて部屋へ飛び込んだ。 「だ~……。  なんなんだよ……」  ソファになだれ込むように座る。 「疲れた」  家に帰ってきたこの数分間で一気に疲れが増した。  ベッドに視線を向けると朝慌てて抜け出した形跡なんて微塵も感じさせない。    ピシッと綺麗なシーツに変わっていた。  俺の部屋がいつも綺麗なのは節子さんのお陰。  節子さんにはだらしないところみられても平気だな。  二人目の母みたいなもんで。  おふくろもそうゆうところは割り切っていた。  だけど、節子さんも自分の立場をちゃんとわきまえていて。  俺たちへの教育なんかには一切口出しはしてこなかった。  ズボンからシャツが出ていても怒るのはいつもおふくろだったし  凛子の髪の毛を結うのも  わからない宿題や勉強、忘れ物のチェックなんかもしているのはおふくろだった。  おふくろはちゃんと俺たち子どもたちの母だった。
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