一輪の真紅の薔薇

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 その甘い声音に何かの感情を抱くわけにもいかず。   轟家の令嬢から視線を逸らし、そこにいるはずの人物を探す。  だけど……。  視線を巡らせても見当たらなくて 「あれ……?  聖時は?」  俺の問いかけに答えたのはおふくろ。 「仕事ばっかりで悠子さんのことはほったらかしみたいなのよ。  ご挨拶だけでも。って今日は一人で来てくださったのよ。」 「マジで!?」  驚き以外に言葉が出なくて……。  彼女がいることも勿論わかっている。  仕事が忙しいことも本当だろう。  だけど……  それはあまりにもひどくないか?  自分の自宅に招く時くらい"好き""嫌い"の感情がなくても一緒に帰ってくるべきだ。  いずれは夫婦になる仲なんだから……。 「一人で来させるなんて……。  ひどいな、聖時のやつ。  信じられない。」  そう、言葉に出してはみたものの  だからって……  俺がその立場だったら  知佳という彼女がいるのに、突然現れたこのご令嬢を婚約者として受け入れられるだろうか。  この数秒間の間に答えがでるわけもなく。  聖時の立場に……  俺も少しはなってみた方がいいのかもしれない。 「いえ、聖時さんは本当にお仕事でお忙しくしていらしゃるから。  一人で勝手に来た悠子が悪いのですわ。」  ご令嬢は俯いたまま聖時をかばうような言葉を吐き出した。
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