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そこは駅前のファミレス。
夜になってサラリーマンが家に帰る時間になると、若者たちで席はいっぱいになる。
夕方の時間帯は空席が多く、上臈玄武(じょうろうげんぶ)は人目につかない席を選ぶことができた。
扉が開くと冷たい風が吹き込み、扉についた大きな鈴がガラガラと賑やかな音を立てる。
「よう、こっちだ」
制服姿の上臈志信の姿を見つけて大きな手を上げた。
「待たせてごめんなさい」
「いや、いいんだ。慌てさせて悪かったな」
玄武は代々女が住職を務めている女郎寺の居候で、寺男のような仕事をしている。
今の住職は玄武の姉の菊世で、男はお荷物なのだ。
上臈の家に生まれた男は、子供のない家に養子に入ったり、
都会に出てサラリーマンになったりしている。
中には、玄武の兄の虎雄のように農家をまるごと買い取って農業を始める者もいる。
志信は菊世の娘で、玄武の姪になる。
その笑顔はキラキラと輝いていて、宝石に例えるなら派手なダイヤではなく清楚な真珠だ。
派手さの無い控えめな美しさを玄武は愛している。
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