上臈の系譜外伝・玄武の腕

卒業式前日

「そんなことないですよ。滅多にできないデートだもの」

志信は玄武の正面に座り、カバンとコートを自分の横にきちんと置いた。

玄武は志信の姿を鑑賞して幸福な気持ちになる。

「外食でもしないと、志信は肉が食えないし……、な」

志信の家では肉食を避ける。基本的に食べるのは精進料理だ。

絶対に肉や魚を食べないというわけではない。

外出先では、出されれば肉も魚も食べるが、極力、仏教の精神に則った生活をしているのだ。

平安時代に女郎寺を開いたのは大善という僧だが、初代の住職はそこで人肉を食した鬼女だ。

鬼女は大善の教えに従い、愛染明王（あいぜんみょうおう）に人肉を食べないと誓った。

そんな理由もあり、肉食に対する抵抗は脈々と引き継がれていて、

人肉を食ったなら寺を追われるという掟（おきて）がある。