再会の館

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老紳士は、私に近寄ってきて、私の顔を見て何か気が付いたようだ。 「失礼ですが、テニスで有名な伊藤 美咲さんですか?」 私は、プロテニスプレーヤーとして活躍していた時代があったが、今は引退して普通に会社に勤めている。 老紳士は、プロテニスプレーヤーとして現役だった頃の私を見たことがあるのだろう。 「はい、そうです。  今は引退していますが…」 私は、店に飾られていた写真が気になって、質問してみた。 「お店の外側に飾られている写真に写っている着物姿の美しい女性は、どなたですか?」 老紳士が、少し恥ずかしそうに話してくれた。 「あぁ、私の亡き妻なんですよ!  ここは、以前は写真館でして、昔のまま飾ってあるんです。」 私が外から店を見た時、少し古びた写真館のようだと感じたことに納得した。 私は、この店のことを聞いてみた。 「今日は、インターネットでこのお店を見つけて来ました。  このお店は、天国に旅立った大切な人と再会することができる…と紹介されていました。  これは、どういうことなのですか?」 老紳士は、優しそうな笑顔で、ゆっくりと静かに答えてくれた。 「信じることはできないかもしれませんが、すでに他界した方と会って話をすることができます。  ただし、時間に限りがあって、10分程度です。  それから、会うのは1度しかできません。  どうしてそのようなことができるのかは、申し訳ありませんが秘密です。」 私が、 (信じていいのかな?) と疑問に思っていると、さらに老紳士が、 「申し遅れました。  私、若林と申します。  この店の経営者です。」 と言って、名刺を手渡してくれた。 名刺には、「再会の館 店主 若林 宏」と書かれていた。 私が、どのように話を切り出そうかと考えていると、 「お客様は、お会いしたい方がいらっしゃるのですか?」 と老紳士が尋ねてきた。 私は、思い切って話を進めてみることにした。 「はい、15年前に他界した父と会いたいです。」 老紳士が、 「そうでしたか…  では、お話を伺います。  あちらにおかけください。」 と言って、テーブルとソファーがある場所に案内してくれた。
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