ニヒルな坊主②

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それが、私が見た初恋の人の最後の姿。 突然の予期せぬ事故で、好きな人に二度と会えなくなったという、思わぬ共通点が専務と私にはあったみたいで。 何がきっかけでそんなことを話したのかは、とっくの昔のことでもう覚えてはいないけれど、新人歓迎会の時に私がどうやらその話に触れたらしい。 そして、その時に私が言った言葉が、専務の最愛の恋人だった人が、いつも口癖のように言っていた言葉と同じだったみたいで。 入社式の時から私の何気ない仕草や立ち居振舞いに、何故か懐かしさを感じていたらしい。 それが、亡くなった恋人に私がどことなく似ているということに気がついてから、私のことを何となく目で追うようになったのだとか。 最初は、そうして私に亡くなった恋人の姿を重ねていたけれど、私と接していくうちに、いつしか亡くなった恋人の影を通してではなく、私そのものに惹かれている自分に気がついた。 亡くなった恋人以来、本気で好きになった女がおまえだ。 ……と専務が真っ直ぐな瞳で告げてきた。
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