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「せ、専務っ」
「何固まってるんだ。1時間半後にはパーティーだぞ」
振りほどこうにも、びくともしない。
「い、いや……っていうかその、手がっ」
「騒ぐな。これは介護だ、介護」
介護?私まだアラサーですし。しかもまだ若い方の。介護がいる年齢ではないと、そこは強く否定します。
腑に落ちない中、専務の力強い手に引かれ、私は足をもつらせながらきらびやかすぎるホテル内へと入った。
手を握られたのって、最初に食事をした時以来だ。綺麗な日本庭園のある懐石料理のお店だったな。そこの入り口に入ってすぐのところで握られたんだよね。
思えばあの時だったっけ。専務を男性として意識するようになったのは。そりゃ、手なんて握られた日には意識しない訳がないよね。
それでもって、その日にキスされたんだった。
そこまでのシチュエーションが、この期に及んで頭の中で鮮明に目まぐるしいスピードで一気に流れるものだから、握られている手にはすっかり汗をかき、顔は一気に火照ってしまった。
「お前、隙ありすぎの動揺しすぎ。そして、分かりやすすぎ」
振り返り、専務が涼しい顔で微笑む。
くそぅ……どうせ単純スキル三拍子揃ってますよ。
こんな姿を悠真に見られた日には、一体何て釈明するべきなのだろう。別に、今巷で問題視されてる恋人繋ぎこそしてないけどさ。
爽やかな坊さんスマイルの影に潜む悠真の怒る姿を想像して、思わず身震いした。
専務の手を何とか振りほどくと、チェックインを済ませて部屋へと上がった。
仕事で来ていて、上司と部下の関係なのだから至極当たり前の話だけれど、流石に部屋は別々にとられていた。それに泊まる部屋の階も、私は下の階で専務は最上階だった。
とは言っても、1泊数万円はどの部屋もするホテル。飛行機といいこの超高級老舗ホテルといい、只のしがない雇われOLごときの為に会社の経費とやらは使われて良いのだろうか?
私、普通のシティホテルで全然オッケーなんですけど。
専務と別れて部屋に入るなり、私は早速パーティー用に身支度を整えることにした。
今回はそれなりのものをと思って、日本でパーティー用のドレスを購入した。結構値段がかかって、財布からお札を取り出すのも断腸の思いだったけれど。
けれど、シンデレラストーリー映画のヒロインのように、また専務に高級ブティックに連れていかれる訳にはいかないし。
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