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いやいやいやいや。俺の女にって、いつから私は専務の女になったんですか。
あまりの専務の鬼気迫る迫力に気圧されたのか、3人目に私をナンパしてきたアジア系男性は、スマートに肩を竦めながら向こうへと行ってしまった。
「専務。お疲れ様です」
ジロリと此方を睨み付ける専務の視線にいたたまれなくなった私は、いかにもな愛想笑いでごまかした。すると、専務が毎度おなじみのデコピンを私にくらわせてきた。
「痛っ」
「阿呆。何そんな分不相応な格好してるんだ」
「えっ。変ですか?」
「変に決まってるだろ。お前には全然似合ってない」
「……申し訳ありません」
会うなり、専務にいきなり服装のダメ出しをされた私のパーティーボルテージは一気に下がってしまった。
せっかく、パーティーで恥をかかないようにと思って買ったのにな……この服。
そう思って、凹みつつ無言で歩き始めた専務の後を歩き始めた。
「そんな男ウケの良い服を身に纏ったお前を連れて、ナンパが当たり前の社交場の中を連れて回る俺の身にもなれ。気になって、お前を1人にすることが出来なくなるだろうが」
「……へ?」
それって……。
「専務、私のことを心配してくれてるんですか?」
恐らく、その質問は専務にとっては正しくなかったのだと思う。
「えっ?」
立ち止まってクルリと振り返ると、専務が物凄い勢いで私の身体を自分の方へと引き寄せてきた。
そして私の唇は、いとも簡単に、磁石のように専務の唇へと吸い寄せられていた。
あまりに突然のことで、私の頭は完全に一瞬フリーズした。
頭の中の止まった時間が再び動き始めた時、軽やかに私の身体は解放されていた。
それと同時に、全身に唐辛子を塗りたくられた兎のように、私の全身は一気に火照った。
「せ、専務っ。いいい今っ、キスっ。っていうか、ししし舌がっ」
フリーズして記憶がふっ飛んでいた筈なのに、この口の中に残る艶かしい感触は何っ?
慌てふためく私に、涼しげなしたり顔で専務が呟く。ともすれば鼻歌でも聞こえてきそうなくらいの口振りで。
「お前の今の格好はな、この俺を誘惑するくらいの破壊力だってことだ。少しは無自覚を反省するんだな」
……専務。
こんな公衆の面前で。
婚約者がいる部下の女性に、いきなりディープキスしてくる貴方こそ反省して下さいよっ。
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