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「まぁ、その……あれだ」
お迎えのリムジンに乗り込んだ後、咳払いをして窓の外を眺めながら専務が呟いた。
あれ?専務、心なしか少し照れてる感じ?
「すまない……言い過ぎた。似合ってるよ、ドレス。すごく綺麗だ。お前が他の男に言い寄られているのが、さっきは少し気に入らなかっただけだ」
「そうですか……。ありがとうございます」
うわっ、照れる。
何この最上級のツンデレっぷり。そして、ツンとデレのあいだのディープキス。しかも相手は只の会社の上司に過ぎないのに、何でこんなにキュンキュンしてるの、私。
イケメンの絶妙なタイミングでのツンデレなんて、聞いてないしっ。
普段とは違う着慣れない衣服を身に纏っている上に、イケメンのオンパレード。……からの、イケメンの嫉妬、映画のワンシーンのような熱いキス、そして素直すぎる告白。
思考回路は、完全にショートする5秒前。
ここでまたしても、エンジェル奈津とデビル奈津の攻防が、私の頭の中で勝手気ままに繰り広げられていく。
専務~、やっぱり色男じゃん?このまま色気振りまいて、ワンナイトラブもありなんじゃね?
ダメよっ。あなたには、悠真さんがいるじゃない。あなたの帰りを待ってくれてる人がいるってことを忘れちゃダメよ。
別に良いじゃん。たった一晩限りのことなら、バレやしないって。別に悠真の元には最終的に帰れば良いんだし?目の前のイケメン専務が、こんなに情熱的な瞳でアンタを見つめてるっていうのに、まさか無視しようって訳?ムリムリムリ。っていうか、絶対その考え大損だから。
何言ってるの?マリエさんにも言われたでしょ?此処へは仕事で来ているのであって、それ以上でもそれ以下でもないの。あなたは仕事をまっとうさえすればそれで良いのよ。
へえぇ。じゃあ言わせてもらうけど、ホテルに戻った後、専務に仕事で疲れたから、お前自身で俺の身も心も癒して欲しいって言われたらさ、仕事の延長として当っ然付き添うのよね?それも仕事の1つだって言われたら。仕事、まっとうするのよねぇ?
そ、それは仕事の範疇には入らないわよ。
何で?雇い主は専務なのよ?その専務が仕事だって言ったら、仕事になるんじゃないのぉ?……ぷっ。まっ、大丈夫そうだけどね。この間もその流れであれよあれよという間にお持ち帰りされてるし、この人。
頭の中で、相反する2つの考えが飛び交う。
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