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「……おいっ。着いたぞ、さっさと出ろ」
「はっ、はい」
頭の中でエンジェル奈津とデビル奈津との熾烈な攻防戦が繰り広げられているうちに(専務そっちのけで、完全にトリップしていた)、どうやらパーティー会場に着いたようだった。
「人が多いな」
「うわぁ……そうですね」
私が我にかえったところで、頭の中の良心と邪心は消えたけれど、専務のさっきのキスの感触は全然消えてくれなくて。
何だか、専務の顔が見れないよ。
コートを脱いで預かってもらいドレス姿になった私を、隅々までという感じで見つめてくる専務の視線を痛い程感じた。
「そんなにまじまじと見られると、恥ずかしいんですけど」
照れて俯きがちの私の言葉に、そっと近づいてきた専務が私の二の腕を軽く掴んで引き寄せると、耳元で囁いた。
「見てるだけの分には、道徳的に許されると思ったんでな。……だがダメだな。見てるだけじゃ、やっぱり物足りない」
ぐはうっ。
物足りないってどういう意味ですか、専務。
マリエさんには、身体のラインが綺麗に見えるものがさまになって良いと薦められたのだけれど。
マリエさん……この平々凡々の小市民の私ごときが言うのもなんですが。
あなた、どうやら選択間違ったみたいですよ?
会場内の奥へと進むと、ニックが満面の笑みを浮かべながら此方へ向かってくるのが見えた。ニックは、うちのパートナー会社のCEOだ。
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