ニヒルな坊主②

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 この出張へついて行く前に、何気なくパソコンを開いて各クラスの航空料金について調べた。  すると場所によっては、ファーストクラスで貯まったマイルやお得割などを使わずに通常料金を支払うと、往復で約二百万円程度のお金が動くことを知り、眩暈を覚えた。 しかも今回の行き先は、摩天楼ニューヨークっ。  只の雇われOLである私の席往復分に破格のお金が使われるって。どれだけ右肩上がりの業績を上げているんだろう……うちの会社は。 否、この事実を知って、経理の人達はどう思うのだろうか。 ああぁ。ふざけるなって、パソコンに電卓投げつけてなきゃ良いけど。 専務……どうか航空料金をネタに、本当に変な要求だけはしないで下さいよ? 私、こんな冴えないアラサーOLですけど、ちゃんと婚約者がいますから……。 マリエさんが、私達を搭乗口まで付き添ってくれた。 松永専務が御手洗いに行っている間、出張中にくれぐれも専務といちゃつかないようにと暗に脅しをかけられてしまった。 そのせいか、飛行機に乗る前から既に疲れを感じている。 安全ベルト解除のアナウンスが流れてから、数分後。 隣りの席にいた専務が、まるで一つの小シェルターのような造りの私の席の所までやって来て顔を覗かせた。 そして、今にも泣き出しそうな顔であろう私に、溜息混じりの呆れ顔で問いかけてくる。 「お前、顔色悪すぎ。具合でも悪くなったか?」 「い、いえ……そんなことないです」 ここで具合が悪いなんて言った日には、どれだけ倍返しの言葉が浴びせられることか。 せっかくの個室対応ばりのファーストクラスの席に座っているのだから、私の存在なんて忘れて寛いでくれたら良いのに……。 「今更飛行機が恐いから降ろしてくださいって泣きついてきても、流石の俺も無理だからな」 えぇ、そんなこと一々言われなくても分かってますとも。 でも、行く前から嫌だとごねた私を無理矢理連れてきたのは、貴方ですよ……専務。
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