ニヒルな坊主②

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「いやいやいや。優先順位、明らかに違いますし。仕事と私なら、間違いなく仕事でしょう」 よく巷では、私と仕事とどっちが大切なのという彼氏にとっては面倒でしかない二択を、フラストレーションが爆発した彼女が聞くという不毛なやり取りがある。 そういうことを聞く女の子からすれば、専務のこの行為は、天にも昇るくらい嬉しいことかもしれない。 でも……専務、だし。 日本で5本の指に入る大会社の跡取り息子だし。 仕事よりプライベート選んじゃ、ダメでしょ。 私とか選んじゃ、大暴落でしょ。 「いや……今は、間違ってない」 違うだろー!って言葉が頭の中でエコーとなり、何度も響き渡る。 響き渡っている間に、何故か突然真顔になった専務が、私の方へと近づいてくる。 なんか……コワい。 「いや、でも……今からでも十分会食には間に合……」 私を真っ直ぐに見つめてくる専務から、目が反らせない。 手を伸ばせば届く距離にまで近づくと、ごく自然に。 専務は無言で私の手を左手で掴み、腰に右手を当ててさらうように、身体ごと軽やかに私を引き寄せた。 それはまるで、舞踏会でワルツでも踊っているみたいで。
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