oblivion

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 カウンターは割と目に付く場所にあった。  カウンターというよりは、幅の広い家具調机のような趣。  店番と思しき女性が座っていた。  見た目は少女と言っていい外観だと思うのだが、しかしその雰囲気はどこか年月を感じさせる老木のよう。  こちらには目もくれず、机に突っ伏すような真剣さで書き物をしている。その割にあまり筆は進んでいないようだが。 「…なあ、ちょっと」  どうするべきなのか、散々迷った末に声を掛ける事にした。  ビクッという擬音が出そうなほどの反応を示し、今しがた自分の中で落ち着いた雰囲気と評した少女は、警戒する小動物のように顔を上げる。  顔立ちはどこか幼い、ように見える。  髪が長いのは分かっていたが、前髪もまた長い。ほとんど目を隠している。強いて言うなら、そのせいもあって大人しそうな、悪く言えば陰気そうな少女。  少しだけ唖然としたような様子を見せ、しかしすぐに気を取り直したようにこちらに向き直る。 「…こんにちは」  無難な挨拶を返してくれるのだが、自分と周囲の状況が状況だけに、どう返していいのか分からない。そもそも店ならいらっしゃいませではないのか。  実は店じゃなくて、どうしてここが店だと思ったのかと言われると一言もないのだが。
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