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その奇妙な店は、寂れた商店街のさらにはずれの、薄暗い路地の入口にあった。
古い日本家屋と壁にしみの目立つコンクリート建ての電器屋の間に、あった。
その路地は、大学に通う道すがら、ほぼ毎日通る。
けれど、その店に気が付いたのは、初めてだった。
古本屋、だと思われた。
硝子張りの引き戸越しに、暗い店内に本棚が何本も並ぶのが見える。営業しているとは、思えない。かろうじて本棚は見えるものの、店内は暗く、電灯一つ灯っていない。
僕は、この店の何を奇妙に思ったのだろう。
今まで気づきもしなかったこの店をみて、おやっと思ったのだ。
でも、何に?
隣の電器屋の自動ドアが開いて、男が出てきた。がたがたと音をたてながら、看板を店頭に出している。もうすぐ開店の時間なのだろう。さしてはやっているとも思えないのに、せかせかと忙しそうに、表を掃き、電池や電球の載ったワゴンを運び出す。
ぼんやりと古本屋の前に立ち尽くす僕に、ちらりと視線を向けられた気がした。
僕は、とっさに古本屋の引き戸に手をかけた。
からり、と予想外に軽い音をたてて、引き戸は開いた。
一歩、店中に踏み込む。暗いは暗いが、外から見ていたほどではなかった。天井では、時代遅れの白熱灯が、暖かな光を放っていた。
本棚には、ぎっしりと、あらゆる装丁、厚さ、時代の本が、何の脈絡もなく詰まっていた。
「いらっしゃい」
抑揚のない男の声がした。
奥を見れば、背の高い白髪の男が、大きな机越しに立っていた。
「本をお持ちですか?」
とっさには、何を言われたのか分からなかった。ここが古本屋であることを思い出し、売るだけではなく、買いもするのだと思い至り、ようやく、いえ、と一言返せた。
「では、ごゆっくりご覧ください」
言うだけ言うと、男は机の奥の古そうな革張りの椅子に沈み込むように座り、目を閉じた。呼吸すらやめてしまったようにみえた。
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