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「この店は、何なのですか?」
店主は、目で僕に座るように促し、自分用にもう一つ椅子を運んできた。
「私にも、よくわからないんだよ。この店は、私が営んでいた古本屋だ。小さな商店街の端っこでね。もう、いつのことだったのかは、分からなくなってしまった。ある時から店が漂いだしたんだ。様々な時間と場所にね」
店主は、いとおしそうに自分の店を見渡した。
「この店は、いろいろな時間のいろいろな場所へ漂っていく。けれど、そのあらゆる場所から分断されている。君も見ただろう。光が差し込んでこないのを」
僕は、深くうなずいた。
「店が漂うようになってから、まっとうに手放せない本を持ってくる人が、現れた。手元に置いておけない、捨てることもできない、人に譲れない、そんな本をね。さっきの人は、裏切ってしまった友人から贈られた本を置いていったよ」
店主は、言葉を切って僕を見た。
「そして、自分自身にそういう思いを持つ人が、本を持たずにこの店にやってくる。どこにも自分を置けない、捨てられない」
「だから、ゆっくりしていくといい」
今日、何度この言葉を聞いただろう。
この言葉を聞くたびに、重い枷が解かれ、許されたような気がしてくる。
僕は、濃い陰影に彩られた店内を、ぐるりと眺めた。
「そう、します」
完
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