黒い影

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玄関を開けると母の靴が見えたので、どうやら帰っているようだ。 リビングに入ると妹がウンザリした顔で話しに付き合っていた。 ハツさんと紅葉を見に行った写真を出され、景色はいいがむしろオバサン達が邪魔なくらいだ。 「綺麗でしょう?記念写真まで撮って満喫した」 オバサン二人とイナリが澄ました顔で映ってる背後には、もみじが赤く染まり風流な仕上がりになっている。 いいデジカメなのかくっきりと撮れているので、母のシワまで見えそうだ。 橋の付近や滝のような場所もあったが、いちいち三人で映っているのがウザかった。 「景色だけでいいのに、これ誰に撮ってもらったの?」 「そこら辺にいる人、やっぱさ景色綺麗だと写りたくなるよね」 「画質いいとオバサン達は悲惨だね、ポーズ全部同じだし何でちょっと斜め向いてんの?モデルのつもり?」 母がハツさんと楽しんでいたのはよく伝わるが、イナリも服を着せてもらい『可愛い角度』を意識して写っていて徐々に笑いが出てきた。 瑠里は交代とでも言うように自分の部屋に逃げ、帰ったばかりの私にイチから話し出す母。 溜め息をつきながらカップにコーヒーを注いで聞き役が始まった。 私の方が瑠里に報告したい事が山程ある。 明日一緒にトレーニングにも行きたいし、桜舞の事だってまだ話してない。 土産話が一段落する頃には、イナリはの膝の上でス―ス―と寝息を立てていた。 「さて、そろそろ時代劇始まるから続きは又ね」 母都合で解放された私は、すぐさまベッドに入り目を閉じた。 目が覚めたのは、いつもは鳴らない会社用スマホのバイブ音だった。 まだ寝ぼけていて素早く動けなかったが、しつこいくらいに振動を続けている。 バッグから取り出すと相手はリーダーで、前触れもなく話しかけられた。 「今、どこに居る?」 「お疲れ様です……家で仮眠してました」 仕事のヘルプだとウザいと思っていたが、リーダーはその先の言葉を中々言わない。 「もしもし電波悪いんですか?無言なんですけど」 「そこに瑠里は居るか?」 寝起きなので早く用件を言えやとイラついたが、部屋には一人だと正直に答えた。
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