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ズンズンと歩く滋さんが何処に向かうのか分からなかったが、角を曲がった駐車場に見慣れたワゴン車が停まっている。
『ゲッ、啄のだ』
ドアをガラッと開けた滋さんは、助手席に座っているリーダーにニコリと微笑むと車に乗り込んだ。
「啄、頼んでた弁当買って来てくれた?」
「あ…あぁ、悟と一緒に買いに行ったよ」
「じゃあ皆で食べようか」
いい匂いのする包みを渡されると、ハンバーグの上に半熟の目玉焼きが乗っていて食欲をそそる。
物音で後ろを向くと、ロープで縛られぐったりとした弦が居たが、咄嗟に見てないフリをした。
「いただきまーす!」
滋さんが食べ始めると皆箸を割ったが、車内の空気はどんよりとしている。
啄もリーダーも嫌いな予防接種の順番が回ってきた子供のような表情をしている。
弦も捕まり、啄とリーダーは誤魔化したものの滋さんに睨みを利かされたのは間違いない。
何事もなかったかのようにハンバーグを食べたが、あまりの美味しさに土産に欲しいと思った。
「あの……瑠里達とは別で帰るんですか?」
「うん、八雲は車で来てるし心配いらないよ。俺らは職場までちょっとしたドライブ楽しむけど」
啄が食べるペースを上げ、まだ残っているのにエンジンをかけて発進した。
行きとは違い、お腹が膨らんでも寝る気には全くなれない。
緊張感があるし、目を閉じたら最後みたいで気分的には遭難した冬の吹雪の中だ。
弦のお腹の音が聞こえても、滋さんは澄ました顔で縄を解こうとしないので、誰も居ないと思うしかない。
「とりあえずゲーム手に入って良かったよ。一台は持って行く予定だし、いやぁ今日はいい休日だわ」
「……そうですか、良かった…ですね」
相槌を打ちルームミラー越しに啄を見たが、一ミリたりとも顔の筋肉が動かず笑ってないのが伝わる。
「啄、百合ちゃんに空蝉屋のヘルプを頼むつもりだけどどう思う?」
「それは百合次第だけど、般若が行くと何か起こりそうな気がする」
普段なら怒るところだが、今は少しでも止めてくれる助け舟が欲しいので黙っていた。
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