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あっと言う間のドライブで、気付けば見慣れた従業員入り口をワゴン車が通過している。
私だけそこで降ろされ受付に向かうよう言われた。
ドアを閉めた滋さんの目が恐ろしくて、残されたリーダー達の安否を気遣いながら早足で歩いた。
受付には木村さんがいつもの笑顔で迎えてくれ、コーヒーを準備して部屋に案内される。
「ゲーム買いに行ったんだってぇ楽しかった?」
「いや予定が変わってしまって、地獄にいた気分です」
「あらそうなの?皆で出かけたと聞いて羨ましかったのに」
呑気に笑っている木村さんに『代わって欲しかった』と心の中で思いつつコーヒーを啜る。
「もしかしてヘルプに入るかもしれないから、簡単に空蝉屋について話しておくね」
木村さんが目の前に座ると、まず家族構成から説明が始まった。
表の家業は老舗和菓子と豆屋で、ウチのパン工場と同じように続いているが今の主は三代目。
子供は男が三人、女が一人いて仕事の手伝いをしているらしい。
店は娘が切り盛りしていて、空蝉屋についてはたまに入る程度。
メインで文化交流しているのは、主と三人の息子みたいだ。
「豆の質はいいしウチの和菓子の小豆の仕入れ先の一つでもある、まぁ昔からの馴染みだし、危険な場所に行く時は護衛役を頼まれる事が多い」
異世界との文化交流は危険がつき纏いそうだ。
あちらの者に比べたら人なんて弱いし、すぐに殺されてしまう恐れもあるだろう。
「ウチも参考にさせてもらってるけど、こっちの文化を伝える事で新たに勉強する事も多いから、空蝉屋の仕事も重要なんだよ」
「でしょうね、でも私はまだ護衛なんて無理ですよ、自分を守るので精一杯ですから」
「基本大丈夫よ?空蝉屋を狙って得する者はいないし、むしろ自分の世界の発展が遅くなるから重宝されてる。それに彼らも護身術位は心得てる」
一応身を守る為の技は持ってるらしい。
ついでにあちらの世界の者に警護も頼めばいいのにと思うが、そう上手くはいかないみたいだ。
「万が一の為に私達がスタンバるのが一番いいのよ、だってプロだからね」
『餅は餅屋』というのが昔からの風習のようだが、私に廻ってくるなんて迷惑以外の何者でもない。
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