背後の気配

20/20
84人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
「今まで大きな事件は数える程しかないけど、公認だからその場で執行していいし、そこまで被害は大きくならない」 「でも危険がゼロでない以上、無色の私なんかが護衛に回るのは失礼だと思います」 「ふふっ『無色をキープしてる』の間違いでしょ?護衛の方が安全だって時も沢山あるのよ?特に女性だと相手も油断するし好都合」 人の世話がやける程自分に余裕があればの話だ。 「通常は金刺繍一人とヘルプ一人で大体立花の者が行くんだけど、水場の担当って蓮だから、コミュニケーシュンがねぇ」 人見知りというか無口すぎて私だって困った位の人だ。 社交性はゼロだけど、護衛にはいい気もする。 「滋もあんなだし空蝉屋と立花って同級生も多いんだよね、そこで月影姉妹にも護衛のヘルプに挑戦してもらおうと思って」 基本『人ならざる者の始末屋』に社交性を求める方がおかしいと思う。 条件に合ってるといえば、今のところ八雲さんか樹さん辺りだと思われる。 他の親族は顔も名前も知らないし、何人いるかも定かではない。 「新作の打ち合わせで、社長と長男と長女も一緒だがら、百合ちゃんご挨拶してみる?」 「えっ、こんな恰好でいいですか……てか、基本私も人見知りなんですけど」 「んふふっ、私に任せておいて」 手を繋がれロッカールームに入ると、いつものつなぎではなく上品なピンクの着物に着せ替えられた。 少しくすんでいてピンクと言っても抵抗はない。 軽いメイクと髪も結ってもらい、小さなかんざしを差すと『お嬢さん』に誤魔化せた。 「ホラ可愛い!これならいいでしょう?ささっこっちにおいで」 木村さんに手を取られ、品質管理部からパン工場へと繋がる通路を渡り、迷路のような社内を案内してもらう。 一人では絶対に戻れないので、帰りも付き添いお願いしますと伝えるとクスクスと笑っていた。 任務の前に顔合わせなんてした事もないし、そもそもヘルプの件を承諾もしていない。 断るきっかけを探していたのに、またもや騙された気分になった。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!