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「出たよ田村びいき、ワシだって言おうと思ったのに先手を打ちおって、百合さんきれ……」
「社長聞いてます?彼女は大丈夫かと言ってるんです」
顔は笑顔だが、相手の男性は諦めずご意見を言っている。
『そうだ!か弱い女性には無理だと言ってくれ!』
心の中でエールを送ったが、話の腰を折られ面倒そうな顔をしたキツネ面は、長男達を部屋から出し、品質管理へと続く通路を歩き始めた。
田村さんの隣にいたが、タヌキ達に突き刺さるくらい視線を浴びているのが分かる。
着物姿を褒めてもらったのは嬉しいが、こちらとしては『あの子じゃ頼りない』と却下して欲しい。
今後はたまに客として豆や和菓子を買いに行くつもりだし、向こうから断ってくれるのが一番丸く収まる気もする。
受付を通り過ぎる際に木村さんがウインクしたが、今から何が始まるのか怖くて仕方なかった。
『オーディションでもするのかな』
何も聞かされてないし、ゾロゾロと歩いているが先にあるのはトレーニング室だ。
社長達が入り不安そうな顔をすると、田村さんは優しく頭をポンポンとしてくれたが、その後寒気がするような目線とぶつかる。
「ちょっと田村!俺の百合ちゃんに触らないでくれる?」
「へぇ、滋の彼女なんだ?」
「違います!」
つなぎを着た滋さんに声をかける長男は、呼び捨てからして親しそうだ。
おまけに私の必死の抵抗はスルー。
社長とタヌキ達は部屋の隅の方に移動していたが、私と滋さんと長男は中央に取り残された。
田村さんだけは少し距離を保って見守ってくれている。
「あの私着物なんですけど、これから何をするんですか?」
「ご安心を、俺も着物なんで危ない事はしませんよっ!」
振り向きざまに懐から何かを出した長男は、こちらに素早く投げてくる。
咄嗟に犬螺眼で弾くと、カランと音を立てて落ちていった。
『えっ忍者が持ってるクナイみたいってか、武器じゃん!』
もし当たってたらと思うと、怖いというより若干イラッとしていた。
「おい歩兎、百合ちゃんにまだ双棒渡してない」
「……ちょっと反射神経みようと思って」
死神の知り合いは似た者同士なようで、イラ度がまた一つ増えた。
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