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ぼくは目を覚ました。
ベッドの周りを見知った白衣の人たちが囲んでいた。一番えらい、ヒゲのドクターが話しかけてきた。
「気分はどうかな、ヤマトくん」
「ぼく、タケルです」
白衣の人たちの間で、歓声に似た溜息がもれた。ヒゲのドクターは満足げに微笑んだ。
「君は今朝までヤマトくんだったんだよ。でも今は私たちの手術によって、タケルくんの体のなかに移植された。心と体を入れ替える革新的な手術の成功者第一号だよ」
「そんなはずありません。ぼくは最初からタケルで、何も変わってません。ヤマトならそこにいるじゃありませんか」
ぼくは、隣のベッドで眠るヤマトを指した。
「ヤマトくんの体には今、タケルくんが入っている」
「だから、違います。ぼくがタケルです」
「よしよし、大成功だ。我々は君が完全にタケルくんになるようにしたのだから。タケルくんの過去も現在も、すべて君に備わっている。そしてヤマトくんだったときの記憶はない」
「何に成功したと言うんですか? ぼくはヤマトじゃありません。少しの変化もなく、生まれたときから今まで、ずっとタケルです。入れ替わりの手術は失敗ですよ」
ぼくは、自分がタケルであってヤマトではないことを、繰り返し主張した。
残念ながら、それを証明するような何かはない。でも、自分が自分であることはごく自明で、疑いようのないことだ。
しかし、ぼくが何を言ってもドクターたちは、「成功だ」と微笑んでいるばかりだ。ぼくの言うことなんて、少しも聞いてもらえない。
不毛さに疲れを覚えて黙ったぼくに、ヒゲのドクターは言った。
「さて、このままではかわいそうだ。戻してあげるとしよう……」
今度目覚めたとき、ぼくはどちらの名前で呼ばれているんだろう……。
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