349人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
◆◇◆
12月。
その日は会社で忘年会をやると言う。
皆で駅に向かっていると、誰かが声を上げた。
「あれ? あの子まだいるんだ? やっぱりなんかの撮影なのかな?」
声が向けられた方を見た、誰かが「綺麗な子ー」と言ったのが聞こえた。
「……裕子……!」
見間違う筈がない、街灯にもたれて立っている裕子がいた。
俺の声に気付き、一瞬嬉しそうな顔をしたがすぐに「ヤバイ」と言う顔になって走り出そうとする。
「待て! お前がなんでここに……!」
追い掛けて捕まえた、逃げる気なんて無かったのかもしれない、あっさり捕まった。
「上山くんの知り合い?」
女性社員が声を掛けてくる。
「はい、妹です」
言うとみんなが騒めく、似てないからだろうか、おまけにこの金髪だ。
「こんなとこで何してる?」
俺はきつい口調で聞くが、裕子は答えない。
「この子、夕方からここにいたよ? 二時間前、俺が得意先から戻る時には」
外回りの社員が教えてくれた。
「いや、綺麗な子だから、何してるのかなと思って、気になって」
微かに顔を赤くして答えた、そうか、そんなに目を引くのか。
「済みません、こいつまだ小学生なんです、家まで送ってきてもいいですか?」
言うと、またもや騒めく。
「小学生!? 見えないね、大人っぽい!」
確かに。この一年近くで更に身長も伸びて、スタイルもぐっと大人びた。
あの日触れた胸は、女のそれ言える程になっていると判る。
「家、横浜だよね! そりゃお兄ちゃん、心配だわ! 送ってあげなー」
二次会、三次会に合流できたらしなねと連絡先を確認し、皆と別れた。
俺は俯く裕子を睨み付けた。
「何しにきた?」
「お兄ちゃんに逢いに、決まってるじゃん」
裕子は小さな声で答える。
新橋にある会社だとは言ってあったから、ここで待っていたのか。
路線も複数あって、改札だってひとつじゃない、逢えるかも判らないのに……。
目の前の金髪を撫でたい気持ちを抑える。
「一人でか? 危ないだろ?」
「大丈夫だもん……」
裕子はいきなり抱きついてきた、あの日より丸みを帯びた体で。
「逢いたかったんだもん……」
金髪が顎をくすぐる、その髪は冷え切っていた。
俺は抱き締め返したい衝動を、ぐっと堪えた。
最初のコメントを投稿しよう!