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ある日の昼前、その日も出掛けようとしていた裕子を捕まえた。
「何処行くんだ?」
「え」
裕子は真っ赤な顔で振り返った。
「ど、何処だっていいじゃん」
「はあ?」
言い濁すなんてらしくないと思い、ちょっと怒気を孕んだ言い方になったら、母から援軍と言うか、告げ口が入った。
「真歩くんと出掛けるんでしょう?」
「え?」
奇しくも俺と裕子の声が重なった、勿論トーンは全く違うが。
「そうなのか? 真歩くんって、毎年夏休みはいなかったろう?」
「え? あ、うん、なんか今年は帰って来てて……あ、じゃ、行ってくるね」
なんだか判りやすい言い方をして、裕子はそそくさを家を出て行った。
「ふうん。そうなのか」
妙に合点して思わず呟いた、母もクスクス笑っている。
「そうなのよ」
「……いつから?」
俺は兄として気になる、と心の中で言い訳しながら聞いた。
「はっきりとは聞いてないけど、暑くなる前だったと思うわ。真歩くんが毎朝、登校前にうちに寄るようになってね」
真歩くんの家は本牧だと聞いてる。通り道にしようとすれば、できなくもない。
その時、窓の外でバイクのエンジン音がした。
リビングの窓からそっと見ると、カワサキのZZ-R400が停まっていた、運転手はヘルメットをしていても判る、真歩くんだった。
星林は免許は禁止だろうに。
華奢な体つきは変わらないが、以前よりずっと背が伸びたようだ。
バイクに座っていても、裕子より視線が上だ。裕子と比較したら俺よりも高いと見える。
目元だけで判る、凛々しさが増したようだ、簡単に言うとイケメンになっている。
裕子はもう一つのヘルメットを受け取ると、真歩くんの後ろに跨った。
ふうん、だから珍しくワイドパンツなんて履いてたのか。スカートが好きだったのにな。
かなりきわどいワンピースなんか着ることもあって、さすがにどうかと思ったが、どうやら多香子ちゃんの入れ知恵らしい。多香子ちゃんは裕子の価値を判っているんだ。
裕子は後ろに乗ったまま、ヘルメットを被る。その最中、真歩くんが裕子の大腿を撫でるを見た。
ちり……と疼く胸の痛みは気付かないふりをした。
裕子が真歩くんの体に腕を回して、二人はぴったり体をくっつけて走り出して行く。
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